DEOS Tech note

人とモノの物語が、”つくる”の源

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触らずにグリグリできるデジタル地球儀をつくる(1)作る前に ー 地球儀の利用シーンを考える

 長く続いているコロナ禍は、僕たちの人生観すら変えてしまいました。しかし「こういう世の中になればいいじゃん」と良い理念を持つ人にとっては、今ほどチャンスとなる時代はないかもしれない。ともかくここ数年の世界はとんでもない速度で変化しています。そして日本は大幅にデジタル化が遅れていると叫ばれている中で、特に教育分野は未来を歩む子供たちにとって”遅れ”は致命的になります。(そもそも”遅れって何が?という議論はまた別で)

 AIで動くアンドロイドやアバターが教師になり、人類の知見を詳細にカテゴリ化し、子供一人一人に見合った内容やレベルの教育を施す。そんなSF映画の世界のようなデジタル教育が実施される時代はそう遠くないかもしれません。しかし、教育も経済も社会も全ては、今と未来をつなぐグラウンドデザインが最も大切なんだということを、改めて強調しておきたい。

「触れる地球」が示した世界観と、実態

 さて、2005年の愛・地球博で登場し、2008年に開催された洞爺湖サミットで華々しく展示された元祖デジタル地球儀の「触れる地球」は、現在でも販売価格が百万円以上と、途方もない価格ではあるものの、当時のデジタル地球儀として、一つの完成形を示しました。実は開発したJVCの方々との交流があり、随分前ですが代理販売の相談をされたことがありますが、デバイスの構造上どうしようもないですが、高価格が理由で断念した記憶があります。一方で誰も作らなかったモノを実現したパイオニアとしてのリスペクトは、分野は違えど自分も同じ道を経験しているため、重視しています。

 「触れる地球」は技術面の工夫の全てが最先端というわけではなく、レガシーと最先端の技術を上手に融合させています。そして、大きな特徴はまさに”触れられるデジタル地球儀”の機能です。球面スクリーンに”両手”を添えて動かしたい方向に軽く力を入れると、映像として表示された地球がビューンと回転します。この反応が結構秀逸にできていて初めて触れた時には感動しました。

「触れる地球」は、デバイスか、それともコンテンツか、またはインスタレーション・アートか。

  「触れる地球」のコンテンツは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が一般に公開している地球の気象変動データを可視化するなど、「地球の環境変動を俯瞰して確認できる」内容になっています。

 つまり”球体スクリーンに触れて操作する”デバイスという印象が大きいですが、伝えようとしている事は「地球の環境変動を俯瞰して確認できる」機能であり、それはコンテンツまたはアプリケーションです。そしてそのコンセプトはデバイス・デザインと見事に融合し、サイエンス・アートまたはインスタレーション・アートとしての完成度は非常に高いです。一方で、”地球儀”というデバイスとしては、やはり気軽に手に入れられない価格がネックになっています。

「わあ!すごい!」の先にあるストーリー

 インスタレーション・アートの多くは、作品発表時に第三者からの「わあ!すごい!」という印象を、より大きく伝える事が評価を得るキッカケの一つです。実際、プロジェクション・マッピングや、LEDアートはまさにそうで、作品が描く物語や背景に観客を没入させるトリガーとして「わあ!すごい!」は大きな効果になります。

Live!オーロラの世界観を造る時にシンパシーを得た、作家「オラファー・エリアソン」

 「わあ!すごい!」で「触れる地球」を”触れる”子供たちは、視覚的に地球儀として近づき、実際に触れ始めます。そして球体スクリーンに表示される気象変動等の情報を直感的に得ることで学びや実感がある。これが「触れる地球」が描く利用シーン。現在の技術的な構造では難しいものの価格が遥かに安ければ、まさに子供の身近にある遊び道具である”地球儀”の進化版としてスタンダードになり得る潜在力はあるでしょう。

”グリグリ、ビューン”と回して遊ぶ、地球儀

 何気なく地球儀の側を通りかかった時にビューンと回したり、ビューンと回した地球儀を手で止めて正面に来た国や都市の名前を予測したり、今も昔も変わらない地球儀と子供たちが触れ合うシーンの殆どは、そんな感じです。そこから国や都市の名前を覚えたり、その場所への興味が湧いたり、世界の広さを知ったりと、地球儀が子供達に与える影響はとても大きい。

 「楽しむ」「触れ合う」事が「学び」へのトリガーです。そのトリガーを限りなく、従来の”アナログ地球儀”と同様にしたい。”地球儀をグリグリしてビューンと回す”そんな情景が、地球儀にさえ触れらないコロナ禍でも実現できたらなあ。これが僕が描いた”新地球儀”の基本形です。マウス等のコントローラーを使わずに、直感的な非接触グリグリ・ビューン機能を持つ地球儀やデジタル地球儀を気軽に手に入れられる。こんな事を実現しうる技術とスキームを、2020年秋~2021年春にかけて作った課程をまとめていきます。

次へ「触らずにグリグリできるデジタル地球儀をつくる(2)コンセプト設計 ー 2008年に作った装置「DEOS」のリノベーション」

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