DEOS Tech note

人とモノの物語が、”つくる”の源

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使われる IoT をつくるー (1)インターフェイスの掛け違い

 僕には故郷の実家で一人暮らしをする高齢の母がいます。それでも、そう遠くない場所には兄の家族が住んでいるため、おかしな訪問者やオラオラな人達からの被害はないので基本的に安心しています。しかし、年末に帰省した時に、母の暮らしぶりに驚きました。物凄く寒い冬なのに、暖房を付けずに居間で過ごしているのです。部屋には最新型の石油ストーブと、満タン状態の予備の灯油缶が2つ置いてあるのに。

 母に理由を聞くと、『ストーブを消し忘れて、火事になるのが心配だから』ということ。エアコンは電気代が勿体ないと言い、足元に小型の電気ストーブを置くだけで、寒い冬を過ごしていました。

 実家は、既に他界した父が建ててから50年が過ぎています。何度か改築や耐震工事を繰り返してきましたが、ホームIoTは導入していません。色々なメーカーが商品化しているIoTシステムを導入するには、そこそこ大規模なリノベーションが必要です。一方で局所的なIoTの導入も考えました。例えば「ストーブを遠隔で操作すればいいじゃん!」と、実際にSwitchBotのRaspberry pi 用SDKを元に、家族用のローカル・セグメントのみから利用できる「ストーブの遠隔操作化」もつくりました。いわゆる、スポット型DXリノベーションで、「レトロ・フィッティング手法」と僕は呼んでいます。
 しかし、このしくみを作っているうちに、「これも違うよな・・・」と思い始めました。母が言う「ストーブを消し忘れて、火事になるのが心配」というのは、ストーブの問題なのだろうか。

 モノつくりに携わる人の多くがはまるトラップは、ここにあるような気がしてなりません。言い方を変えると、一見、「モノを必要とする人が発する言葉の行間を読む」という事のようで、システム開発工程における「要件定義」の問題のようにも感じられるかもしれません。いや、多くのIT関係者はそう考えるでしょう。

Switchbotを独自のAppとネットワーク・セグメント、またはVPN経由で操作できるしくみを作ってみた。SwitchbotがSDKを公開しているところが”ミソ”。これまでのソフトベンダーのサービスでは、「API公開がベスト」と考えられているようですが、僕の考えではちょっと違います。

進まないDX化と、カウントダウン

 ホームIoTや見守り、介護の現場には、これまでも多くのIoTシステムが導入されたり、または、提案されてきました。さらにSaasのようなNoCodeシステムの普及によって、IoTだけではなく、DX化の導入コストが格段に下がってきたのは大きな特徴です。

 一方で、システムを開発する企業からは「いくら値段を下げても、導入が進まない」または、「導入しても、満足してもらえない」等の声を聴くことは少なくありません。特に、医療、介護、福祉のような「人と人の交流」が主体の現場では、システム開発工程の「要件定義」の段階で、コミュニケーションが取れていない、そう考えられることが多いようです。

 結果的に、IT界隈からは「介護や福祉、見守りのDX化は、儲からない」との声が漏れ始めています。日本が超高齢化社会に向けてカウントダウンに入っている状態にも関わらず。これは結構ヤバい。モノつくりにプロとして関わる一人として、大切な母すら守れないとすると、「技術革新ってなんだ?」という哲学の問題になってきます。

インターフェイスの掛け違い

 医療や介護、福祉等、長年の経験から蓄積された作業工程の元、プロとして現場で奔走する人達のところに、一見オタクっぽいエンジニア達が「DX化しますぜ」と話かける段階で、人の感情面のバイアスが生まれ、コミュニケーションの障壁が生まれることは仕方がありません。
 僕がLive!オーロラを運用している時にも、それなりの企業やコンサルと名乗る人達が訪れてくれましたが、同様に「うちの事業を理解しているのか?」と感じたことは何度もあります。とは言え、僕がLive!オーロラで描く事業の「グラウンドデザイン」は当時の社会には少々前衛的で、時代を先取りしすぎた印象はありますが、様々なコミュニケーションで感じた共通のネガティブ・ポイントは、お互いが持つ「インターフェイスの掛け違い」でした。つまり、お互いが求める要点や視点が完全にズレていて、しかも、そのズレに気がついているのにどうしようもない状態です。恋愛だと完全にすれ違うパターン。

 この「インターフェイスの掛け違い」を解決する手段として、これまでは営業力やコミュニケーションが重視されてきたように感じます。先の記述にある「感情面のバイアス」は、この手法で解決出来ることが多いでしょう、一方で「インターフェイスの掛け違い」は、営業力やコミュニケーションでは解決し得ません。これは、「前衛的なプロジェクト」を世に広めようと奔走した経験から、わかっています。どれ程準備をして根回ししても「素晴らしい取り組みだから個人的には応援しますが。。」と、何度言われたことか笑。 僕が多少不器用な所は自負していますが、そんな問題じゃない、全力でやってきたので。

 さて、僕と見守りたい母の関係を例として考えてみます。僕と母は当然ながら信頼関係は深い。母に酒を盛って、言いくるめて、、などの営業やコミュニケーションから考え直す必要などありません。「ストーブの消し忘れ」を心配する母の想いは、ストーブの問題だけではないかもしれない。しかし、離れた場所に住むことは避けられない事情もある。母の想いと、僕の事情をつなげるための「インターフェイス」が違うのかもしれない。

理想と「事業の現実」のジレンマは、解決できる時代がくる?

 システム開発のスタッフがクライアントの要望を伺う「要件定義」は、”IT”という言葉が生まれた2000年頃より以前から存在する大切な作業工程です。そして最近までは「要件定義」後の作業工程で、いかに無駄なコストをかけずに”クライアントを納得させられるか”という、事業としてのスキーム開発が行われてきました。それはクライアントが望む理想と、事業としてのシステム開発のジレンマとの戦いで、IT界隈の常時的な工程でした。

 その後、近年はSaasの登場で、「クライアントがITで出来ることを低コストで選べる」時代に入っています。しかし、ここにもジレンマが存在します。クライアントとなる「ITを使いたい人」が選べるモノは、決して自由ではない。存在するモノの中から、自分が欲しいモノと”近いモノ”を選ぶしかありません。または、「カスタムできます」というSaasサービスも多いですが、この工程に入ると、先の「要件定義後の~ジレンマ」と同じ状態になります。

 なんか、おかしな事やっているよな・・・・。ずっと感じていました。何とも言えない効率の悪さといいますか、何か当たり前のことに気がついていても、見ぬふりをせずにいられない状態を続けている。そんな歯がゆい感じです。
 ここで登場してきたのが「AIによるNoCode化」。さらに、ここ20年の技術革新で様々な考察用のパラメーターが生まれてきています。。あれ?もしかしたら、IT界隈だけではなく、様々な分野にも大きなパラダイムシフトが始まっているのかもしれません。そして、視点を変えたら、先のジレンマなど、存在しない社会になるのかもしれません。

 そんな社会になったら、ITだけではなく、様々なテクノロジーの恩恵を”誰もが”受けられるかもしれない。ちょっとワクワクするので、その方法を探ってみます。

「次へ 使われるIoTをつくる ー グラウンドデザイン」

※ 関連記事「未来を予想するゾウ

※ 関連記事「Switchbot をカスタムする ー クラウドを経由しないで操作できるようにする


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